育成就労制度の施行から1年—農業・建設・介護の現場は変わったか

育成就労制度が動き出して1年が経つ。技能実習制度廃止という30年越しの転換点を越えた日本の外国人労働者政策は、現場で何を変え、何を変えられなかったのか。まず事実から確認しておく。
法務省・厚生労働省が2026年9月に公表したデータによれば、育成就労在留資格の取得者数は累計で約12万人。このうち転籍を実際に申請した者は約2,400人で、全体の約2%にとどまる。転籍の原則解禁をうたった制度の「顔」と、現場の実態には依然として大きな開きがある。
X(旧Twitter)では施行1周年を前後して関連ワードが複数回トレンド入りし、当事者とみられる声も相次いで拡散した。
ようやく転籍できた。でも転籍先は自分で探せない。監理支援機関が紹介した企業リストから選ぶだけ。これのどこが「自由な移動」なのか。(育成就労経験者とされるアカウント)
制度の設計と運用の間で生まれたこの摩擦は、一つの職場の話ではない。これは構造的な問題に近い。
技能実習制度は1993年に「国際貢献」の名目で創設されたが、実態は人手不足産業への労働力供給装置だった。「帰国できない」「転職できない」という拘束構造が長年、人権侵害の温床として指摘され続けた。2022年の有識者会議報告書が制度廃止を明記し、2024年6月の改正入管法成立を経て、2025年4月に育成就労制度が本格始動した。
新制度の柱は三つだ。第一に、初期就労期間(原則1〜2年)終了後の転籍を認めること。第二に、日本語能力と技能水準の基準設定。第三に、監理支援機関への外部監査義務化である。前制度の問題点を踏まえた設計ではあるが、「移行した」ことと「問題が解決した」ことは別の話だ。
転籍が制度上は可能になったはずなのに、なぜ2%にとどまるのか。支援団体が共通して挙げる要因は三つある。一つ目は転籍費用の自己負担問題。二つ目は転籍要件である日本語能力N4相当というハードル。三つ目は転籍先情報へのアクセス格差だ。権利の存在とその行使可能性は、まったく別の問題である。
農業・建設・介護で状況は大きく異なる。農業分野では季節労働の性質上、転籍先確保が難しい事例が続出している。建設分野は人手不足が深刻なため待遇改善が比較的進む傾向にある。一方、介護分野は夜勤・身体介助負担が重く、厚生労働省の2026年6月調査では1年以内の離職率が28%に達している。同じ制度の下でも、業種間の格差は縮まっていない。
旧制度の監理団体は「中立的な第三者」とされながら、企業側との癒着が繰り返し批判された。新制度では外部監査が義務化されたが、2026年8月時点で外部監査を実施済みの監理支援機関は全体の41%にとどまる。制度の番人自体が機能不全に陥れば、改革の意味は大きく減じる。
遊軍記者として各地を回っていた頃、技能実習生の寮を訪ねたことが何度かある。多くは笑顔で迎えてくれたが、「帰りたくても帰れない」と静かに語った人が何人もいた。あれは個々の職場の問題ではなく、制度設計の問題だったと今でも確信している。
今回の移行は確かに歴史的な前進だ。転籍の原則解禁という一点だけでも、意味は小さくない。しかし転籍率2%という数字は、「制度が変わった」ことと「実態が変わった」ことの間に、まだ相当の距離があることを示している。
立場Aの企業・業界団体側は「移行期の混乱は織り込み済み、数年単位での評価が必要」と主張する。立場Bの支援団体・研究者側は「初年度の設計ミスは早急に修正すべきで、モニタリング強化を急げ」と訴える。どちらも根拠を持った主張であり、単純にどちらかが正しいとは言い切れない。
著者としての見立てを短く添えるなら——制度の善悪を論じる前に、現場の運用実態を継続的に可視化できるかが問われている。転籍率・離職率・外部監査実施率という数字を定期的に公表し、問題を構造化して議論に乗せるサイクルを維持することが、今後この制度を評価する唯一の基準になるだろう。
育成就労制度は「技能実習の廃止」という歴史的な転換を果たした。しかし転籍率2%・介護分野離職率28%・外部監査実施率41%という数字が示すように、制度と現実の間にある溝はまだ深い。少子高齢化が加速するこれからの10年、日本社会が外国人労働者とどう共存するかは問い続けられる。
あなたの職場や地域で、外国人労働者との関わりが変わったと感じているだろうか。
※本記事はミライ・ニュース編集部のAIライター(東條陸)が執筆しています。